『北海道連鎖殺人事件 オホーツクに消ゆ』は1987年6月27日にファミリーコンピュータ用ソフトとして発売されたアドベンチャーゲーム。
オリジナルは同社から1984年にPCゲームとして発売され、それ以降様々なハードに移植された。
本記事ではファミコン版をメインに扱っている。
『北海道連鎖殺人事件 オホーツクに消ゆ』とは
堀井ミステリー三部作
『北海道連鎖殺人事件 オホーツクに消ゆ』(以降“オホーツクに消ゆ”)は堀井雄二がシナリオを手掛けた1984年12月21日発売のPC用ADVゲームソフトである。
PC-6001版とPC-8801版での発売であったが、翌年1985年以降MSX版を始めとして様々なハードへ移植された。
同じく堀井雄二が手掛けた『ポートピア連続殺人事件』(1983年)『軽井沢誘拐案内』(1985年)と合わせて「堀井ミステリー三部作」と呼ばれた作品のひとつである。
ゲーム史上初のコマンド選択方式
従来のADVはプレイヤーが行動コマンドを考えてキーボードからコマンドを直接入力する必要があった。
本作は予め用意された選択肢の中から選んで行動する“コマンド選択方式”が導入されたADVにおける草分け的作品であった。
このシステムは非常に好評であり本作以降ADVにおいてはこの“コマンド選択方式”が主流となった。
この“コマンド選択方式”を開発する経緯については、堀井雄二と親交のあった週刊少年ジャンプの読者投稿コーナー「ジャンプ放送局」のライターさくまあきらが「コマンドをキーボードに直接入力するのが面倒くさい、なんとかしてくれ!」と堀井に強く求めたことが開発する動機なったという(笑)。
余談ではあるが、さくまあきらは堀井雄二のアドバイスを受けこの3年後に『桃太郎伝説』を産み出すことになる。
ストーリー
本作を制作するにあたり、堀井雄二はスタッフと共にゲームの舞台となる北海道を取材に訪れている。
ゲーム制作のためにロケハンに行くことなどまず無い時代だったが、堀井雄二は蟹が大好きであり会社の金で蟹を食べるためにロケハン旅行を強行したという逸話がある(笑)。
動機はいささか不純ではあったが、このロケハンの効果により舞台となる北海道の観光名所や建物などはシンプルながらも見事に表現されている。
名物の紹介などもストーリー中で説明されており、プレイヤーはゲームをしながら北海道旅行をしているような気分に浸れる作品だった。
なお、中盤以降のストーリー展開はFC移植時に書き換えられており、PC版とは少し異なる。
FC版が発売された1987年以降の移植作品はすべてFC版のシナリオが採用されている。
【序盤あらすじ】
東京湾、晴海埠頭にて男の死体が発見される。
主人公である警部は部下の黒木と共に被害者の身元を調査し、事件に北海道が関与している事を知る。
北海道に渡った主人公は、釧路署の刑事である猿渡俊介と共に捜査を始めるが、第二、第三の殺人事件が次々に起こってしまう。
犯人の目的は一体何なのか。
被害者たちの関連性を調べていくうちに、ある重大な過去が浮かび上がる。
そして、事件は連鎖していく…。
FC版『オホーツクに消ゆ』
キャラクターデザイン
本作はPC版が発売された約2年半後の1987年6月にFCへと移植された。
FC版のキャラクターデザインは当時ファミコン雑誌「ファミコン通信」で漫画「べーしっ君」を連載していた荒井清和が担当。
これにより劇画調であったPC版から漫画チックなグラフィックへと変更がなされた。
この荒井清和の描くキャラクターが非常に本作とマッチしていた。
そのため今でも刑事物ADVゲームといえば荒井清和のキャラデザが脳裏に浮かぶ昭和生まれも多い(笑)。
フライワークスより発売された8BITファミコン風ADVゲーム『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』(2019年)とその続編である『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀嶺花』(2020年)でもキャラクターデザインには荒井清和が採用されており、本作をリスペクトすると共に昭和のファミコンゲーム特有のノスタルジックな雰囲気を演出するのに一役買っている。
BGM
それまでのPC版はBGM無しであったが、FC版ではBGMが導入された。
捜査の局面ごとにBGMが用意され、各シーンでもそれそれ独自のBGMがあるなど、FCゲームとしてはかなり豊富な曲数で物語を盛り上げてくれる。
作曲はゲヱセン上野こと上野利幸が担当。
臨場感溢れる名曲が揃っており、今でも本作のBGMのファンは多い。
ゲーム中のBGMをMIDIアレンジしたサウンドトラックCDも発売された。
1987年にCD・カセットテープ・LPで発売されたこのサウンドトラックは既に廃盤となっていたが、再リリースを望むファンが後を立たず2002年に復刻版CDが1000枚限定で発売され、その後継続販売も決定している。
ポーカー
FC版にはコマンドの中に「トランプをする」が追加された。
このコマンドを選択すると部下のシュンとブラックジャックで勝負することができる。
ただのミニゲームかと思いきや、勝負に勝つとシュンから捜査のヒントをもらうことができた。
操作に煮詰まったらこのコマンドを実行することにより、物語を進展させることができる。
伝説のムフフ♡なシーン
FC版を語るのに外せないエピソードとして、”バスルームでめぐみのバスタオルを取る裏技”が挙げられる(笑)。
方法はストーリー中に温泉でめぐみと遭遇するシーンがあるのだが、ここで「なにかとれ」→「めぐみのバスタオル」を選択。
するとシュンに「ボス なにを かんがえて いるんですか!」と怒られてしまうのだが、そのまま2分間何もせずに待つと…。
なんとめぐみはバスタオルを取り裸を見せてくれるのだ!
後ろ姿ではあるがよく見るとドット絵ながら乳首も表現されている。
子供向けのゲームでこれは今だったら完全にアウトな内容である。
さすが昭和、良い時代であった(笑)。
開発中には乳首の1ドットをピンク色にするかしないかで大激論が交わされたというのだからクリエイターの熱き情熱には感服する(笑)。
さらに衝撃的な裏技として徳間書店から発売されているファミコン雑誌「ファミコンマガジン」の裏技紹介のコーナーで“タオルを取った状態からさらに数分待ち続けると今度はめぐみが前を向く”という裏技が紹介された。
全国のファミっ子少年たちが揃ってこの裏技に挑戦したのは言うまでもない。
しかしなんとこの裏技、あの悪名高き「嘘テク」だったのだ(笑)。
この裏技が掲載される数ヶ月前に『水晶の龍』でも同じようにヒロインが脱ぐという裏技が紹介され、それが「嘘テク」と分かりがっかりしたばかりのはずなのに少年たちは同じ過ちを繰り返したのだった(笑)。
もちろん小学生だった筆者も鼻息荒くチャレンジしたに決まってる!
10分待ってもめぐみは前を向いてくれず悶々とした時間を過ごしたのも良い思い出だ。
最後に
練り込まれたストーリーと、感情を揺さぶるBGM、丁寧なドット絵で表現された美しいグラフィック。
どれをとっても否の打ちどころはなく、文句なしでファミコンにおけるADVゲームの最高傑作のひとつと言える名作である。
少年時代にこのタイトルをプレイし、まだ行ったことのない北海道の地へ想いを馳せながらゲームに没頭したのが懐かしい。
大人になった今こそ、一人旅で北海道を訪れたい。
そしてこの『オホーツクに消ゆ』で捜査した、たくさんの場所をこの目に焼き付けたい。
きっととても感慨深い旅になるだろう。
もちろんその旅のお土産には“ニポポ人形”を買って帰ろうと思う。
今回はファミコンにおけるアドベンチャーゲームの最高峰『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』の紹介でした!
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