『天外魔境 ZIRIA』は1989年6月30日にPCエンジンCD-ROM²用ソフトとしてハドソンから発売されたロールプレイングゲーム。
「外国人から観た誤った日本観」をコンセプトとする「ジパング」という架空の国を舞台にした天外魔境シリーズの1作目。
その後続編制作、他機種移植、リメイク、アニメ化、小説化など様々な形でメディアミックス化されるシリーズとなる。
ディレクター広井王子、音楽坂本龍一など錚々たるメンバーが製作陣に名を連ねる事で話題になった作品。
天外魔境とは
『天外魔境 ZIRIA』はハドソンが当時まだ百科事典や辞書などの用途で使われ始めた程度だったCD-ROMを媒体として開発したRPGである。
CD-ROMを家庭用ゲーム機で初めて搭載したPCエンジンCD-ROM²のキラータイトルとして制作開始から発売までには2年以上の歳月をかけられた。
これまでのROM媒体とは比べ物にならない膨大な容量を活かすことにより、アニメーション処理された映像、声優によるキャラクターボイスによる会話、そしてメインテーマを含む3曲のメインテーマは生楽曲が採用された。
作曲は坂本龍一がが担当するなどして、当時のゲームでは全てが規格外の演出であり大きな話題となった作品である。
『イースⅠ・Ⅱ』と共にCD-ROM²普及の火付け役となったタイトルである。
世界初のCDゲームハード「CD-ROM²」の記念すべき初RPGタイトルでありゲーマーたちの期待はとても高かった。
企画・監修を務めた広井王子へのインタビューによると、天外魔境は「3部作3シリーズ」という『スターウォーズ』と同様の構想があったとの事である。
また、当時は数少ない和風RPGという事で同じハドソンで1987年に発売された『桃太郎伝説』の制作スタッフも開発に協力した。
販売本数はシリーズ累計220万本であり、大成功を収めたタイトルである。
あらすじ
世界の東の果てにある国ジパング。
四季折々の花が咲き乱れる美しく平和な国であったが、今から千年前、ある男によって滅亡の危機に晒されたことがあった。
その男の名は「マサカド」。
マサカドはジパングを自らの理想郷とするべく破壊の限りを尽くし、生物は死に絶えようとしていた。
だがその時、「火の一族」と名乗る者たちが現れ、「マサカド」へと戦いを挑んだのである。
戦いは百日に及び、火の一族の多くが死に絶えた。
そして死闘果てに、「火の一族」は“3つの玉”の力で「マサカド」を地の底深く封印することに成功したのであった。
こうしてジパングには平和が訪れた。
しかし、その平和は長くは続かなかった。
「マサカド」を甦らせんとする魔の手が、ジパングに忍び寄りつつあったのである。
物語は坂東地方にある筑波山から始まる。
ここでは「マサカド」との戦いで生き残った火の一族の末裔の少年「ジライヤ」が、師匠の「ガマ仙人」の元で修行を積んでいたのだが… 。
主人公
主人公は「火の一族」の末裔である3名の若者。
ジライヤ
火の一族、ガマ族の末裔。ガマ仙人の元で育てられ、マサカド復活をたくらむ大門教を討ち果たすために旅立つ。
得物は刀、特技は「ぬすむ」。
ツナデ
火の一族、ナメクジ族の末裔。
怪力が自慢の少女。ナメクジ族なので塩が苦手。得物は斧、特技は「うそなき」。
オロチ丸
火の一族、ヘビ族の末裔。江戸のショーグンに育てられ、直属の密偵となる。
ショーグンが大門教に入信したため、ジライアとともに戦うことを迷っている。
得物は弓、特技は「ながしめ」。
ビジュアルシーン
この時代のゲームのBGMは、まだまだ8bit音源が主流であった。
本作のオープニング流れるBGMはCD音源あり、その迫力に初めて聞いた時は衝撃を受けた。
坂本龍一作曲なので音質だけなくメロディーも最高であり、筆者はゲームをスタートせずにオープニングミュージックを何度も繰り返し聴き続け、これから始まる冒険に胸を躍らせたものだ(笑)。
ただし全曲坂本龍一が担当しているわけではなく、楽曲数はオープニング、エンディングを含む3曲のみである。
キャラクターが喋りまくる演出も驚きだった。
これまでも音声合成による機械的な声で短いセリフを喋るゲームはあったが、プロの声優による感情の籠もった言い回しや掛け合いはまるでアニメのようであり、ゲームの進歩もここまで来たかと感動すら覚えたものだ。
とは言っても当時のCD-ROM容量や技術ではオープニングのビジュアルシーンや、重要なイベントシーンなど、フルボイスシーンはごく僅かでしかなかった。
CD-ROMの容量はカードリッジROMに比べとても膨大であり、MAPの広さ、敵キャラ数、BGMの豊富さなどそれまでのゲームとは一線を画していた。
ちなみにこの時代のファミコンソフトと比べると4倍近い容量であったらしい。
その容量を活かし、生音源やフルボイスだけでなく、ゲーム内容そのものを細かい部分まで作り込み、より深い世界観を作り込むことに成功している。
ゲームシステム
ゲームシステム自体はそれまであったRPGを踏襲している。
旅先で立ち寄る村々や城下町では何かしら問題が起こっている。
その問題を解決しようと調べていくと、大門教の息の掛かった領主が悪さをしていることが原因だとわかる。
領主(人間に姿に化けた妖怪)をとっちめて平和を取り戻し、また次の町に旅立って行くというストーリー運びが基本となっている。
各地方で出会う登場人物はどれも個性豊か。
ジライヤたち一行の旅は賑やかで楽しいものとなっている。
敵も愛嬌のある者から憎たらしい者まで揃っていて飽きない。
水戸黄門などの日本ならではの人物も登場する。
様々な人々と出会いながら成長してゆく一行の姿を見るのも楽しさのひとつだ。
戦闘
戦闘シーンはオーソドックスなターン制バトル。
こちらもシステムと同様に従来のRPGのスタイルを踏襲している。
ジライヤは刀による攻撃に加え、術も使えるオールマイティーキャラ。
ツナデは小柄な女の子だが巨大な斧での攻撃が得意な肉弾戦タイプ。
オロチ丸は華奢な色男、様々な術を使いこなす魔法使いタイプ。
ROM容量を気にしなくてよいので、敵の種類はかなり多くなっている。
個性的な敵が多いので、三人の特性を活かしながら戦闘を有利に進めてゆくのがコツ。
敵キャラはアニメーションし、攻撃時や技の使用時にかかるエフェクトも多彩で臨場感がある。
ボス戦は当然、雑魚戦でも戦闘は盛り上がること請け合いだ。
最後に
第3作まで発売されたナンバリングタイトルだけに留まらず、様々なスピンオフ作品も制作される事となる、天外魔境シリーズの記念すべき第1作目である。
この1989年という時代は昭和が終わりを告げ、平成が始まった年である。
日本は好景気であり、あらゆるジャンルでとても勢いのある時代だった。
もちろんそれはゲーム業界も多分に漏れず、新しいテクノロジーにより日進月歩の速度で進化していくゲームにファミっ子たちはワクワクしっ放しであった(笑)。
そんな中で世界で初めてCD-ROM媒体のRPGとしてリリースされた本作。
CDならではのローディングの遅さなどの問題がまだまだ山積みであり、改善する点が多々あった点は否めない。
それでもゲームの未来を感じさせるという点では、しっかりと役割を果たしてくれた超大作であったと言える。
今回は規格外の容量による驚きの演出を見せてくれた『天外魔境 ZIRIA』の紹介でした。
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