『MOTHER(マザー)』は1989年7月27日にファミコン専用ソフトとして任天堂より発売された発売されたRPGである。
任天堂初のコマンド選択型RPGで、後に続く『MOTHERシリーズ』の第1作目。
現代アメリカの架空の地域を舞台に、1人の少年とその仲間たちが各地で起こる異変の真相を突き止めるため旅立つという、当時としては珍しい現代劇風の世界観が特徴となっている。
1900年代の初頭、アメリカの田舎町・マザーズデイで、ひと組の夫婦が行方不明になった。
その後、2年程して夫のジョージだけが町に戻ってきた。
しかしジョージは自らの身に起きたことについて一切語らず、不思議な研究に没頭し続けた。
そして、妻のマリアが戻ってくる事はなかった。
時は流れ1988年、マザーズデイでは、ジョージとマリアをひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんに持つ少年が暮らしていた。
ある日、少年の家で突如、家具や人形がひとりでに動き出し少年に襲い掛かった。
戦いの末にこのポルターガイスト現象を収め少年が自宅の広間へ向かうと、単身赴任中のパパから電話がかかってきた。
そこで少年が直前の出来事について話すとパパは、その現象がひいおじいちゃんの研究と関係しているのではないかと語った。
話を聞いた少年は身支度を整え、怪奇現象の謎を探るべく旅に出た。
MOTHER誕生のお話
『MOTHER』はコピーライターの糸井重里がゲームデザインを手掛けるRPGシリーズの第1作目。
糸井重里は自らがドラゴンクエストファンであり、自分もRPG をデザインしたいと思い立ち現代風のRPGの企画書を任天堂に持ち込む。
当初任天堂は持ち込まれた企画を少し訝しんでおり乗り気ではなかったが、当時は一社員であり、のちに任天堂代表取締役になる宮本茂が糸井重里の“本気度”を感じ取り、開発チームを編成、打ち合わせを重ねる中で信頼関係が築かれていった。
そうしてこの『MOTHER』という名作が誕生したのだ。
今までとはひと味違うRPG
当時ファミコンソフトのジャンル人気No.1であったRPGは膨大な本数が発売されておりたくさんのタイトルがファミコンショップに並んでいた。
しかしどれも中世ファンタジーが舞台であり、剣と魔法にてモンスターと戦うという世界観のものばかりであった。
これはファミコンに初めてRPGというジャンルを確立させた『ドラゴンクエスト』の影響であり、暗黙の常識でRPG=剣と魔法とドラゴンのようなイメージとなっていた為である。
糸井重里はこのような“ドラクエを模倣”したゲームではなく独自の世界観とシナリオにて本作を作り上げることに拘った。
そして完成した作品は1980年代当時の現代アメリカを舞台としたノスタルジックな世界観と、児童文学的な趣のシナリオであった。
可愛い敵キャラと優しい武器
今までのRPGと一線を画してるのは舞台となる世界だけではない。
登場する敵キャラもエイリアンやモンスター以外に、エイリアンに洗脳され凶暴化した人間や動物、はたまた機械など様々であるが、どれも可愛らしく憎めない姿をしている。
敵を倒した際も人間や動物が相手の場合「◯◯は我に返った」と正気に戻ったことを強調するメッセージにより殺伐とした雰囲気にならないように配慮されている。
ちなみに機械系などは「もう動かない」、モンスターなどは「倒した」と表記される。
そのコンセプトはアイテム関連にも取り入れられており、主人公たちが使用する武器類は「フライパン」や「バット」などの日用品、回復アイテムは「ジュース」や「パン」などの食料品となっている。
魔法の代わりになるものが超能力(PSI)であり、これにより物理攻撃以外の攻撃を仕掛けることができる。
斬新なゲームシステム
ゲームシステムもそれまでのRPGとはひと味もふた味も違っており、オリジナリティーを出すための様々な工夫がゲーム内のあちこちに見受けられる。
例えば敵を倒してもお金は奪えず、戦闘に勝利した分をパパが口座に振り込んでもくれる、そのお金を街のATMで引き出して主人公たちは旅を続けていくのだ。
ちなみに通貨単位は$(ドル)となっている。
当時にしては珍しく町とフィールドが切り替わらずシームレスで行き来できる。
80'sのアメリカの田舎町をモデルとした広大な世界は非常にノスタルジックであり、BGMものどかな雰囲気なものが多いため、まったりと世界を旅している感じがよく表現されている。
斜め上からの見下ろし型ビューとなっており当時としては珍しく立体感を出している。
町の名前には、「マザーズデイ」(母の日)や「サンクスギビング」(感謝祭)などアメリカの祝日や年中行事の名称が用いられている。
長距離移動の際はは大陸を横断する鉄道も有料で使用することができる。
PSI「テレポーテーション」により他の町に一気にワープすることも可能。
しかしこの「テレポーテーション」は一定距離の助走によって加速した勢いで瞬間移動する(BTTFのタイムワープみたいな感じ)という能力のため助走のため高速で走ってる最中に障害物にぶつかると自爆してワープは失敗となる(ダメージは受けない)。
ふんだんに盛り込まれたオマージュ
糸井重里がハリウッド映画のファンであったこともあり、ゲーム内の随所に80'sハリウッド映画のオマージュ要素が散りばめられている。
例えば主人公の少年が喘息持ちである設定は、『The Goonies(グーニーズ)』より。
1985年:スティーヴン・スピルバーグ(制作)
襲いかかってくる家具などのラップ現象は、『POLTERGEIST(ポルターガイスト)』より。
1982年:スティーヴン・スピルバーグ(制作)
敵モンスターのゾンビはもちろんたくさんある『ZOMBIE(ゾンビ)』映画より。
『ナイトオブザリビングデッド』(ゾンビ映画の基礎を築いたと言われる元祖ゾンビ映画)
1968年:ジョージ・A・ロメロ(監督)
『STAND BY ME(スタンドバイミー)』から引用されたセリフ。
1986年:ロブ・ライナー(監督)
ついでに先ほど紹介したワープのPSIの設定も『BACK TO THE FUTURE(バックトゥザフューチャー)』のオマージュと思われる。
1985年:スティーヴン・スピルバーグ(制作)
これら以外にも様々なハリウッド映画のオマージュがあり、昭和世代のサブカル好きだとひとつ見つけるたびにニヤリとしてしまうのでなかろうか?(笑)
最後に
糸井重里が『MOTHER』に付けたキャッチコピー、「エンディングまで泣くんじゃない」と「名作保証」のふたつ。
そのキャッチコピーの通り本当に感動的であり、心に残るタイトルとなった本作。
筆者がこのゲームをクリアした時はまだ幼く、ストーリーの説明が作中内で少し足りてない部分があり、この物語の真の奥深さには気づけませんでした。
しかし世界観や、システムの面白さに没頭して最後までクリアできた思い入れのあるタイトルであります。
のちほどファンブックや考察レビューなどを読み、物語が補完できた時は暖かい衝撃で心が包まれました
主人公たちを守るために死んでゆく「フライングマン」やロボットの「イヴ」などに切ない哀しみを感じ、ボス・ギーグとの戦闘での歌による攻略のくだりはお母さんの愛にプレイヤーは涙すること間違いなしだと思います。
BGMも素晴らしい曲揃いで、今でもサウンドトラックが人気です。
もちろん筆者も所有していますよ!
ゲームボーイアドバンスで復刻した際にもう一度クリアしましたが、やはり30年前のゲームなのでエンカウント率の高さやユーザーインターフェースの不親切さなどが気になり、今の若い世代ゲーマーにおすすめはできないのが正直なところでした。
最近ではスマブラでネスやリュカ(MOTHER1・2の主人公)などが参戦しているので、『MOTHER』の存在は知っているけどプレイはしたことのないゲーマーも多いと思います。
ちょうど今年で『MOTHER』誕生から30周年。
この機会にSwitchでフルリメイクMOTHERを制作開始とかしてくれないでしょうか?任天堂さん!(笑)
今回は平成元年に発売された名作RPG『MOTHER』の紹介でした。
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