『たけしの挑戦状』は1986年12月10日にタイトーからファミリーコンピュータ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。
恐らくファミコン史上1番有名な伝説のクソゲー。
しかしこのゲーム、一言でクソゲーと片付けることはできない部分も多々ある。
鬼才ビートたけしによる様々な常識を覆すアイデアと、今の若いゲーマーが聞いたら俄かに信じられないレベルのクソ仕様で日本全体に激震を走らせた問題作である。
たけしの挑戦状とは
昭和61年に発売されたが、あまりにも伝説的なクソゲーの為、現代の若い世代のゲーマーでも一度はその名を聞いた事があるであろうファミコンカセットである。
ただし、若いゲーマーはこの『たけしの挑戦状』がなぜそこまで歴史に名を残す事になったか詳細までは知らないと思う。
今回はその数々の伝説を紐解いていく。
古参ゲーマーも昭和を懐かしむ意味で楽しんでくれたら幸いだ。
あまりにも前衛的な宣伝文句
当時ファミコンに夢中になっていたビートたけしの「今までにない独創的な発想を入れたい」という意図が反映され、数々の斬新な内容が盛り込まれている。
キャッチコピーは「謎を解けるか。一億人。」で、ソフトのパッケージ表面には「常識があぶない。」と称し、裏面ではビートたけしが「今までのゲームと同じレベルで考えるとクリア出来ない」とコメントしている。
また広告には「成功確率 無限大数分の1」と書かれていた。
タイトーの端からプレイヤーにクリアさせる気など微塵もないと言う意気込みが伝わってくる良いキャッチコピーだ。
そしていざプレイ開始すると上記の言葉がギャグではなく如何に本気で言ってるのかが身に染みてよく分かる。
たけし軍団によるフライデー襲撃事件
CMは、たけしが『雨の新開地』を歌うシーンと、たけしがIIコンのマイクに向かって「出ろ!!!」と言い、宝の地図が出てくるシーンの2パターンがあった。どちらのCMもゲーム攻略のためのささやかなヒントになっている。
当時お茶の間のブラウン管テレビでこのCMを見たファミっ子は多いのじゃないかな?懐かしいです。
しかしこのCM、発売日前まではテレビに流れていたが、発売日である12月10日以降はテレビから姿を消した。
その理由は事もあろうに発売日の前日である1986年12月9日に、あの有名な「たけし軍団によるフライデー襲撃事件」が発生しビートたけしが逮捕されてしまったからである。
この事件には世間が衝撃を受け、かなり話題になった為やむを得ない処置であったとは思うが、なんとタイトーはお構い無しで本ソフトの発売に踏み切ったのである。
今ならメイン監修者が前日に傷害事件を起こしたら発売延期は確実、悪ければ発売中止になっていた可能性もある。
そこはさすがは昭和、さすがはタイトー、さすがはビートたけしである。
狂気に満ちた世界観
主人公は何処にでもいそうなサラリーマンなのにも拘らず、ヤクザや警察官が突然攻撃してきたりする。
自宅にいる妻や子供でさえ敵として登場したりするなど非常に退廃的でバイオレンスな世界観である。
登場するキャラクターは敵だろうが味方だろうが関係なく全て攻撃可能である。
人を倒すと問答無用で金を奪う事ができ、罪に問われることすらない。
会話コマンドにも相手に「殴りかかる」や「喧嘩を売る」といった物騒な選択肢が用意されている。
後年、北野氏がバイオレンス映画で名を上げることになったのも頷ける。
昭和61年にはCEROが無かったがバーチャルコンソール配信時にはCERO:B指定となった。
ゲーム内でやってる内容は後述するGTAとほぼ一緒なのでCERO:Zが妥当であると思われるが、見た目が可愛いからだろうか…?
そしてこんな殺伐極まりない内容なのに、BGMは狂気を感じるほどに明るい。
なんとゲームスタートからエンディングまで通して、マイナーコード(悲しみを表現する和音)が一度足りとも出てこない。
ちなみにゲームオーバー画面は主人公の葬式というなんともシュールな絵面である。
ゲームの内容
あらすじ
主人公は「薄汚れた町並みの中に住む所帯持ちのしがないサラリーマンで、台詞は罵言暴言など汚い言葉遣いが多い」という設定。
そんな彼がふとした事から財宝の在処が示された地図を手に入れ、それを探しに旅立つという冒険物語…らしい。
「らしい」というのは、そのことに対する説明がゲームソフト中では一字一句たりとも全く語られないからである。
ストーリー設定を説明せず「察しろ」とは…プレイ前からいきなり強烈な挑戦である。
ゲームスタート
最初からゲームを始める場合は左側に移動。
パスワードによるコンティニューをする場合は右方向に移動して、パスワード屋のおやじに言って続きから再開できる。
驚く事にこのパスワード画面の受付キャラに対してさえ「おやじをなぐる」という選択肢で殴りかかることが可能 。
ちなみに「おやじをなぐる」を選択すると、おやじが「ぎゃー ひとごろしーー」と叫び、主人公のライフが突然ゼロになって気絶し、ゲーム開始前にゲームオーバーとなる。
とりあえずゲームスタートをしよう。
まずは宝の島に発つ前に日本での人生のしがらみを全て捨てなければならない。
まずは会社を辞める
始めると、いきなり主人公が社長から成績の悪さに不満を言われつつボーナスを受け取る場面からスタートする。
ここで社長に話しかけて辞表を提出し、退職しておかなければ後に宝の島に着いた時に社長が待ち受けており日本に強制送還されゲームオーバーとなる(ノーヒント)。
例によって「しゃちょうをなぐる」というヤバい選択肢もあるが、選択すると無数の警備員が襲い掛かってくる。
次に離婚をしよう
自宅に戻ったあと妻と離婚しなければいけない。離婚しなかった場合、後に宝の島に着いた時に鬼嫁が待ち受けており日本に強制送還されゲームオーバーとなる(ノーヒント)。
しかもただ帰宅するだけでは離婚できない。
帰宅する前にスナックで酒を飲み続けて倒れ、自宅に運び込まれるというダメ亭主っぷりを嫁に見せつけなければならない。
離婚すると慰謝料を請求されるのだが、これは所持金の75%を取られてしまうため、なるべく所持金が少ない状態で離婚できるようにしておきたい。
調整次第では慰謝料100円で離婚することも可能である。
離婚後は妻や息子は常時、主人公を攻撃してくるようになる。
なお、この妻こそ本作最強クラスの強さを誇る敵キャラであり、撃破はまず不可能な為、遭遇したら迷わず逃げよう。
宝の地図を手に入れよう
次は最重要アイテムである宝の地図を手に入れよう。
スナックで焼酎を2杯呑むとカラオケができるようになるのでCMで使われてる「雨の新開地」を歌うのだが、これは実際にⅡコンのマイクを使って歌わなければならない。
連続して歌っているとヤクザが「いいかげんにしねえか!」と絡んでくるんで、喧嘩して惨殺しなければならない。
勝つと乞食みたいな爺さんが「ほねのあるやつじゃ」と言いながら白紙の宝の地図をくれる。
この白紙の地図に宝の場所を浮かび上がらせる方法は、「日光にさらす」という選択肢を選び1時間そのまま何もしないで待つ事が正解。
ゲーム内での1時間ではなくリアルで1時間。
コントローラーを置いて何もボタンを押さず1時間待つと地図が浮かび上がってくる。
無事地図が浮かび上がったら宝の地図をくれた爺さんを殺そう。
ここで殺しておかないとラストで宝を見つけた際にこの爺さんが出てきて宝を横取りされてゲームオーバーとなる(ノーヒント)。
これでまだ第1章の序盤
ここまでで紹介したイベントだけでもヒント無しでは常人にはクリア不可能なフラグ立ての数々だが、まだこれで第1章の半分も来ていない。
全部で4章構成であり難易度はこれからさらに上がると言うクソゲーっぷりである。
難し過ぎてクレームの嵐
あまりにも難し過ぎて、発売元であるタイトーに「子供が泣き出し、親がクレームの電話をかけてきて社会問題になった。相当数のクレームがきた。」とのちに北野氏は明かしている。
「白紙の地図の謎が分からない」と電話で聞いてきたユーザーに親切に「1時間放置してくれ」と教えてあげたのに逆上して超キレられたという逸話もある。
その理不尽な難易度にクレームが絶えなかった為、当時ビートたけしの所属していた芸能事務所・太田プロダクション傘下の大田出版から攻略本が上下巻で発売された。
しかし攻略本を読んでも攻略できない人が多かったのと、攻略方法があまりにも人を馬鹿にしたような内容ばかりな事に腹を立てたユーザーから更に質問とクレームの嵐が殺到した。
そのため大田出版には連日のように抗議と質問の電話がひっきりなしにかかり、疲れ果てた担当者が「担当者は死にました」と嘘をついてやり過ごしていたという伝説が近年明らかになった。
実際に抗議や質問が殺到したため、元々は1巻だけで済ませるはずが下巻を出すことを余儀なくされた。
たけしはフライデー襲撃事件を自虐ネタにして、攻略本の後書きに「これで解けないからといって、間違っても傘と消火器を持って太田出版に殴りこまないように」と書いている。(天才かよw)
絶望的なエンディング
これ程までに超難解であり、『DARK SOULS』なんざ比較にならない理不尽な死にゲーをやっとの事でクリアしたユーザーを待ち受けているエンディングは
ビートたけしの顔と「えらいっ」のセリフだけというあまりにシンプルすぎるものであった。
そのある意味衝撃的なエンディングに呆然としていると5分後に、
「こんな け゛ーむに まし゛に なっちゃって と゛うするの(こんなゲームにマジになっちゃってどうするの)」という小バカにするようなメッセージが表示され、プレイヤーに精神的追い討ちをかけてくる。
強烈なクソゲーであるが根強い人気も
これ程のクソゲーでありながらも最終的にな販売本数は80万本を記録しており、これは歴代ファミコン ソフト売り上げ順位では全ソフト1252本中48位の快挙である。
ちなみに『ファイナルファンタジーⅡ』が76万本で50位ということから如何にヒットしたかが伺えるだろう。
何人ものファミっ子がこのゲームを購入し、阿鼻叫喚する姿が想像に容易い。
これだけのバカゲーでこの売り上げを叩き出すところは流石天才ビートたけしといったところか。
その人気は現在でも続いており、2017年には『たけしの挑戦状 スマホ版アプリ』が840円で配信開始された。
そして2016年にはまさかのサントラが発売された。
発売元はレトロゲーム専門のサントラレーベル「クラリスディスク」。
ジャケットは例の葬式画面を採用。
メーカー曰く「常識が危ない挑戦的なジャケット」。
さらに続けて『たけしの挑戦状VR』を発売すると発表し、ゲーマーたちに衝撃を与えたがこれはタイトーの仕掛けたエイプリルフールネタであった。
30年経ち「クソゲー」から「名作」への認識の変化
最近のゲームタイトルでこそ広く認知され、導入されているゲームシステムが先駆けて実現されている点でゲーム界のパイオニアと呼ぶ意見もある。
例えば前半の市街地における人を殴り殺す、カラオケで歌う、酒を飲む、資格を取得するといった自由度の高さは、箱庭ゲームの原形ともいうべき要素であり、早すぎた『グランド・セフト・オート』と評価する向きもある。
筆者は幼い頃友達からこのゲームを借りてプレイした。
勿論クリアできなかったどころか、日本からの脱出すら無理だった。
クリアできなく、所有もしてないのにここまで鮮烈に脳裏に焼き付いていて、ゲームに関する知識も未だに憶えている作品もなかなか無いだろう。
いつもはクソゲーレビュー記事は2500~3000文字ほどの文字数で収まるのだが、気がつけば今回の記事は5500文字超となっていた。
やはり「クソゲー」の一言で片付けてはいけないタイトルなのだろう。
このくだらない内容の記事を5500文字も読んで頂いた読者の皆様には、感謝の気持ちを込めてこの言葉を送りたいと思います。
こんな ふ゛ろく゛を まし゛に よんしゃって と゛うするの」
今回は『たけしの挑戦状』の紹介でした。
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